ヒト胎児標本形態データベースの構築

Construction of a Morphological Database of Human Embryos

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1.研究の背景

近年ヒトゲノム解析の進展に伴い、ゲノムが担う遺伝子情報と成長により発現 する形態との 関係解明が求められており、胎児標本の形態情報をデータベース化することは、発生に伴う複雑 な形態形成に関与する遺伝子の働きを解明する ための貴重なデータリソースとなる。 最近、マウス 胎児組織における遺伝子の時間的・空間的発現パターンを3次元的に視覚化しようとする試みが 英Medical Research Council (MRC)と 米 Jackson研究所 の連携などによって始まっているが、 ネット上で公開されているその成果は今のところ量・質ともに 極めて不十分なもの にとどまっている。また、ヒト胎児についての同様の試みはこれまで知られて いない。

当研究室では、本学医学部 先天異常 標本解析センター が所蔵するヒト胎児 標本コレクション(京都コレクション)の形態データベース化 を進めている。 ヒト胎児標本コレクションとしては 現在米 National Museum of Health & Medicine が所蔵する カーネギー・コレクション がよく知られるが、 京都コレクションはホルマリン固定されたマクロ標本(図1)や連続切片標本(図2) などの 形で総計数万体に及び、これは世界にも類をみない大規模なものである。


2.検討中の課題

標本形態データベースの構築を実現するためには、標本データの3次元画像化 と加工・格納、適切な 検索キーによる画像データの検索、検索された3次元画像の提示など、広範囲にわたる技術的課題を解決 する必要がある.数万の データ件数はデータベースとしては中規模であるが、標本をすべて3次元画像 とし てデータベース化する事を考えるとデータ規模は総計で数TBに及ぶことが 予想され、ハードウェア構成も含 めて非常に大規模なデータベースとなる。 現在は以下の課題について検討し、これに基づいてプロトタイプの 構築を進め ている。

標本データの3次元画像化 マクロ標本の3次元画像化は、 筑波大学物理工学系NMRイメージ研究室 の 協力により、同研究室開発のMRM(核磁気共鳴顕微鏡)により画像化を進めている (図3)。連続切片標本に ついては、切片間の位置合せに基づいて3次元画像化を 効率的に実現する手法を検討中である。

画像データの検索 画像データの検索は、付帯する書誌情報を データベース化し、文字情報検索により実現を図る。文字データ ベースの構築 と利用は現在広く行われており、ここでの課題はヒト胎児標本に特化した 検索キーの設定手続き、 効率的なユーザインタフェースの構築などである。

3次元画像の提示 3次元画像の提示方法としては、画像中から 関心部位を抽出し、サーフェスレンダリングなどにより抽出部位 を表示することが 一般に行われる。しかし、処理の過程で導入される閾値処理などにより所望の情報 が失われ る場合があるので、作業者が求める情報を過不足なく取り出し、直感的に 理解可能な形で表示する手法の開 発を研究課題としている(図4)。

なお、上記課題の実現に際してヒト胎児3次元モデルを導入することを検討中で ある。 本学 学術情報メディアセンター では、医学教育を目的とした精密なヒト 胎児モデルの構築と医学教材の作成を進めており(図5)、同センターの協力に よりこれらのモデ ルを利用する。

これまでに構築した標本画像データベース検索・表示システムでは、大規模なMRM画像群から自動的に 標本外表を抽出し、複数の胎児標本間および標本と胎児モデル間の形態を比較観察可能としている(図6)。


3.関係研究部門

[1] 京都大学大学院医学研究科 附属先天異常標本解析センター(胎児標本所蔵)
[2] 筑波大学物理工学系NMRイメージ 研究室(巨瀬研究室) (MRM撮影)
[3] 京都大学学術情報メディアセンター 美濃研究室(胎児3次元モデル構築)

図1 ヒト胎児標本外表写真
[1]より提供)
図2 連続切片画像(横断面)
[1]より提供)
図3 MRM 画像(矢状断面)
[2]より提供)
図4 MRM画像からの関心領域抽出
図5 三次元モデル(外表)
[3]より提供)

図6(a) ヒト胎児標本データベース検索・表示システム(検索結果)
標本外表の一覧表示
図6(b) ヒト胎児標本データベース検索・表示システム(検索結果)
標本外表の一覧表示(視線方向の一括変更)