MRI による臓器の軟らかさの計測・解析

1. 研究の背景

当研究室では,本学 再生医科学研究所 シミュレーション医工学分野 と共に,磁気共鳴画像法(Magnetic Resonace Imaging : MRI)を用いて 臓器の硬さを計測・解析する研究を進めている.

組織の力学特性である硬さの情報は, 疾患や機能障害のある組織の診断指標の一つである. また,当研究室で別途進めている仮想現実技術を用いた 体内組織の可触化のパラメタとしても用いられる. しかし,硬さの指標である粘弾性定数を定量的に測定したデータは少ないため, 非侵襲的で定量的な粘弾性定数の計測法が望まれている.

粘弾性定数の定量的な計測法としては力学的弾性測定法が存在するが, 計測対象からサンプルを取り出す破壊的な検査であるため,侵襲的である. また,外部から対象組織に対して一定の力学的応力を与え, 組織内部に生じるゆがみを超音波画像やMRIを用いて画像化する手法がある. この手法では,与えられた力学的応力による 各位置の変形量を計測することが困難であるという問題がある. この問題を改善した計測法の一つに Magnetic Resonance Elastography (MRE)法がある.

2. Magnetic Resonance Elastography

MRE法では,外部から与えられた一定周波数の 振動が組織内を伝播していく様子を画像化する(図1). そして,得られた画像から局所波長と局所減衰率を求め, 粘弾性定数を計測する[1]

MRE画像を撮影する際,外部から与えられた振動は組織内を伝播して行く. ある位置における波の時間方向の変化は微細な振動となり, この振動と同期した振動勾配磁場を与えることにより波の画像をMRIにて取得する[1]. 実際に粘弾性定数を計測する場合, MRE画像を取得するには,高磁場のMRI装置内で駆動できる外部加振装置が必要となる. また,定量的な粘弾性定数の計測のためには, 取得したMRE画像から高い空間分解能で高精度に波長と減衰率を導出することが重要となる. MREでは,位相の異なるMRE画像を複数取得することができる(図2). 当研究室では,(1)計測対象を効果的に振動させる方法 [2], (2)多重位相MRE画像を用いることにより, 粘弾性定数の導出を高分解能かつ高精度に行う方法 [3]を研究し, 組織の粘弾性定数の測定を行っている.

図1 MRE画像
図2 多重位相MRE画像

[1] T.OIDA, A.AMANO T.MATSUDA: "Magnetic Resonance Elastography : in vivo Measurements of Elasticity for Human Tissue," IEEE2004, (2004) article

[2] T.OIDA, Y. KANG, T.MATSUDA, J.OKAMOTO, T.AZUMA, O.TAKIZAWA, A.AMANO, S.TSUTSUMI: "Bed-type oscillator for MR Elastography," ISMRM2004, p.1773 (2004) abstract poster

[3] 笈田武範,大野友和,天野晃,松田哲也,姜有峯,東高志,堤定美,岡本淳,瀧澤修: "弾性波あてはめ法によるMR Elastography からの粘弾性定数の導出," 電子情報通信学会技術報告 MI2003-19, pp.43-48 (2003) article