シミュレーションソフトウェア開発

当研究室では,細胞・生体機能のモデリングやシミュレーションのためのソフトウェアや技術の開発を行っている.細胞や生体機能のモデルは,その複雑さや構成など,他分野のモデルとは異なる点が多い.それゆえ,効率的なモデル構築やシミュレーション実行のためには,細胞・生体機能モデルに特化したソフトウェアや技術が必要となる.そこで当研究室では,細胞モデルを効率的に構築し実行するためのモデリング環境や,複数シミュレータを組み合わせて連成計算を行うシミュレーションプラットフォームなどのソフトウェアと,それに必要とされる情報工学技術,数値計算手法などを研究開発している.

細胞モデリング環境

我々が扱う細胞モデルは,細胞機能を構成する個別の要素について実験データに基づいて定式化し,その機能要素モデルを多数組み合わせることで構成されている.モデルの改良は継続的に行われ,機能要素モデルの追加や交換が頻繁に行われる.また,そのモデル式には多くの経験式が含まれており,一つの細胞モデル中であっても多様な形状の式が含まれる.さらに,細胞自体の複雑さゆえに,細胞モデルにおいても変数間には複雑な依存関係がある.

このような特徴を持つ細胞モデルについてモデル構築を簡便化するために,我々の研究グループでは,モジュール構造を考慮したモデル記述言語の設計や,モジュールの合成を容易にするオントロジーの設計・技術開発を行い,それらを取り込んだモデル編集ツールを開発している.また,頻繁なモデル更新や,複数プラットフォームでのシミュレーション実行に対応するため,計算コードの自動生成技術を開発している.これまでの研究成果の一部は,細胞モデリングソフトウェア Cybow Modellerとして公開している(図1).

図1:Cybow Modeller

連成シミュレーションプラットフォーム

我々が行っている左心室や循環動態のシミュレーションでは, 複数の現象間の相互作用を連成計算するシミュレーションを行う必要がある. そこで扱われる個々の現象については, 各分野の専門家が作成した既存のシミュレータが利用できる場合が多い. それらの個別のシミュレータを統合して連成計算用シミュレータを構築できれば効率的である.

そこで我々の研究グループでは,要素シミュレータを統合して生体機能の連成シミュレーションを実現するソフトウェアとして,連成シミュレーションプラットフォーム DynaBioSを開発した.DynaBioSを用いることで,各現象のためのシミュレータを実装することなく,モデル構成や連成計算手順を変更したシミュレーションが容易に実行できる(図2).

図2:DynaBioS

近年の研究成果

論文

  • 嶋吉隆夫,天野晃,松田哲也.細胞モデルの微分代数方程式に対する可解な計算条件の効率的設定手法.「情報処理学会論文誌」,52(8), pp. 2412-2421, 2011/8.

学会発表

  • 川端真成,鷲尾直大,荒川真帆,プンザラン=フロレンシオ=ラスティ,嶋吉隆夫,桑原寛明,國枝義敏,天野晃.漸化式形式で記述されたODE解法に基づく生体機能シミュレーションプログラム生成システム.生体工学シンポジウム2013,福岡市,2013/9.
  • Florencio Rusty Punzalan, Yoshiharu Yamashita, Masanari Kawabata, Takao Shimayoshi, Hiroaki Kuwabara, Yoshitoshi Kunieda, Akira Amano. Code generator for distributed parameter biological model simulation with pde numerical schemes. IEEE EMBC 2013, 大阪市, 2013/7.
  • Yuki Hasegawa, Takao Shimayoshi, Akira Amano, Tetsuya Matsuda. A coupling method for a cardiovascular simulation model which includes the kalman filter. IEEE EMBC 2012, アメリカ サンディエゴ, 2012/8
  • Yuki Hasegawa, Takao Shimayoshi, Akira Amano, and Tetsuya Matsuda. A study on prediction methods for a cardiovascular strong-coupling simulation. IEEE EMBC 2011, アメリカ ボストン, 2011/8.
  • 長谷川雄基, 嶋吉隆夫, 天野晃, 松田哲也. 循環動態シミュレーションの強連成計算における予測子を用いた収束速度の向上. 電子情報通信学会MBE研究会,徳島県徳島市,2011/7.
  • Takao Shimayoshi, Akira Amano, Tetsuya Matsuda. A method for semantic definition of experimental protocols. 11th International Conference on Systems Biology, イギリス エディンバラ, 2010/10.